毎年秋が来ると、我家の庭の片スミに植えられた柿の木が赤い実をつけて楽しませてくれる。
父が苗木を買ってきて植えてくれたものだが、苗木を植えた3年後父は他界した。赤い実がたくさんついた柿の木を、父は見る事がなかった。
3年では実をつけるまでに苗木は成長しない。父が亡くなってから約35年。彼が味わえなかった柿の実をほおばりながら、父の事を思い出す。
楽しい事、良い事ばかりではなかったけれど、それら全てを含めて思い出なのだ。自分の事をいつまでも忘れず、思い出してもらうために植えたわけではないだろうけれど、結果的にこの柿の木があるかぎり彼は私の中で生き続けてゆく。
父はうまくやったなあ。私は私を思い出してもらえるような何かを残す事が出来るのだろうか。
そうだ!私は歌手なのだ!
私の歌を聞き、口づさむ事によって、私は私の歌を愛してくれる人の中でいつまでも生き続ける事になる。
父は柿を残し、息子は歌を残す。
嗚呼、何という美しい、感動的な物語だろう!(自画自賛)
我が父は柿の木のこし去りゆきぬ
私は歌を残すのか
巡る命の音が聞こえる
津軽海峡ああ冬景色(合掌)